【BCx事業戦略】メルカリによるMercariX構想
最近しっかりウォッチできていなかったのですが、メルカリはやはりやることがでかい…所感含めてまとめてみました。
10/5に開催されたMercari Tech Conf 2018でメルカリがBlockchain(以下、BC)を用いて新たな価値交換システムの構築を目指していることが発表されました。
その構想はMercariX。BCをベースとした次のコンセプトモデルで、リスティング機能/エスクロー機能を備え、中央管理機関を介さないP2P取引を可能とするサービス基盤について社内PoCを行っているとのことです。そこでは暗号通貨;メルコインが使われているとのこと。BC技術のオンパレードなサービスの実証が行われています。
■基本情報■
<メルペイとは>
2017年にメルカリの金融子会社として設立され、単なる決済機能会社でなくシェアリングなどの様な取引データから生まれる「価値交換と信用」によるスコア化信用創造会社」と位置付けている。
「信用を創造して、なめらかな社会を創る」をミッションとしており、利用者をエンパワメントするために必要な信用を想像し、究極的には「信用の流動性」を高めて取引できるメルカリ(「お金がなくても使えるようなメルカリ」…現在は種銭がないと信用も創れない)を目指す。
信用のベースとなるデータは本業のフリマアプリで得た膨大な個人間の取引データに加え、同社子会社のソウゾウによるシェアサイクル事業「メルチャリ」などの利用データも保有している。個人の信用度を定めるための要素を着実に集めてきた。
<Mercari X>
(概要)
BCの可能性の検証のため、「MercariX」というアプリ(独自のBCと暗号化通貨(仮想通貨)を使った新たなサービス)を社内PoC中で、社員が独自通貨「メルコイン」を使用して物品売買をP2Pで行っている。
大きく2つの機能を有しており、下記2つの組合せでBCの特徴を生かしたDAppsの開発を行う。
- 1;需給マッチング =現Mercariと同様に買い手/売り手の取引基盤アプリ
- 2;仲介機能 =エスクロー機能を備えた仲介機能提供アプリ
(具体的には…)
1;需給マッチング
- 一番の特徴はユーザー同士でチャット型のコミュニケーションを取れること。
- BCという新技術導入に伴うユーザーの利便性低下を、参加者同士がチャットを用いて円滑なサービス利用できるようにする
2;仲介機能
- P2P取引(個人間取引)及びBC利用の肝となる機能。
- 普段メルカリが担当している監視などの仲介を個人が行うというもので、基本的には上述したチャット/メッセージ機能を利用し仲介を進める
■ビジネスモデルと変化■
<現状のビジネスモデル>
マーケットプレイス+仲介(エスクロー)する仲介業の役割の二つで構成されている。
【1】マーケットプレイス
- 売り手が商品を出品
- 欲しい買い手が購入
- 買い手は購入代金をメルカリに預託
- 売り手は運送業者に対象物品を渡して、申請
- 買い手の元に商品が届き、レビューが完了
- 売り手に代金が支払われる。
【2】エスクロー
- 取引が公正に完了するかの監視を行う機能となります。仲介に関して現在メルカリは全責任を負い、それと引き換えに10%の手数料を受け取るという形を取っています。
- 責任範囲は下記を含む取引に係る全行為に及んでいます
- 買い手は料金を支払ったか
- 商品を確実に受け取れたか
- 運送業者が正しく届けたか
- レビューは正当なものとなっているか など
- 価値交換という行為においてエスクロー機能は肝。「欲求の二重の一致」にあたってもエスクロー機能をどのように機能させるかは重要。
<MercariXのビジネスモデル>
BCにより、マーケットプレイス/仲介機能がPF提供型からP2P型に置換、インセンティブ及び経済圏構築によるマネタイズ/ビジネス拡張に舵を切ることになりますが、最大の特徴は「インセンティブ」。
現在メルカリで提供している「不正監視等の取引仲介機能」が個人も担えるようになるため、インセンティブの設計によってサービスの品質が左右される虞があります。
- 売り手が商品を出品
- 買い手はMercariXのマーケットアプリで商品閲覧し、マッチング
- 買い手/売り手の両者は「仲介をする個人のエスクロー」に仲介料を払う
- 運送確認もBC活用して商品の発送/到着を確認
- 売り手/買い手/仲介者が相互にレビュー
- MercariXでは全てが「メルコイン」によってメルカリを通さず直接送金/取引が実行される点が最大の特徴。
- 肝心のマネタイズは「仲介機能(Mercariがしても問題ない)」「仲介機能利用手数料(仲介者からの手数料)」がメインになってこようと思われますが、既存のMercariも終了するわけではなく、そちらからの収益が大宗を占めるものとみられます。
■MerariXの課題■
<トランザクション量>
- 課題;トランザクション処理量に限界。大量のトランザクションを発生させるプロトコルを運用するにはどのレベルのスペックを求められるのか
- 解決; PoSの利用/ Shardingの利用/ side chainによる解決/ステートチャネルの利用
<セキュリティ>
<インセンティブ設計>
- 問題;当該システム(インセンティブ設計)はP2P間での信頼担保/取引仲介/サービス展開に耐えうるか。また、利用者が使いたくなる設計なのか
- 解決;公平/使いたくなる設計(ゲーム理論的アプローチ)/トークンエコノミーに向けたサイドチェーンの利用/ステーブルコインなどの利用検討
■BCの活用余地■
- メルカリ/メルペイが目指す世界観の中でBCが用いられる利点としては「1;改ざん困難性」「2;対検閲性」「3;非中央集権」の3つとみられ、これらBCの効用はPF事業者に対して大きく2つの変化「A;プラットフォーム環境の変化」「B;信用の形の変化」をもたらすと考えられます。
<A:プラットフォーム環境の変化>
- 現状の各種PF事業者の特徴はネットワーク効果にあり、「中央集権下に人が集まる→1つのPFに力が一極集中」という流れで経済圏を構築してきました。具体的には下記の流れが一般的でした。
- 一つの巨大PFサービスを運営する企業に多くの人が集中
- 当該PFに多くの情報が集まって利便性が向上
- 利便性向上により、更に人が集まる
- 更に利便性が向上する
- しかし、BC技術導入により、このような中央集権型PFの管理形態は退場を余儀なくされ、個人間取引がより盛んになるプラットフォームが生まれてくると考えられます。
<B;信用の形の変化>
(概要)
- これまで、メルカリのような経済行為を仲介するサービスは、運営会社への信用(第三者機関の存在によって担保された信用)で成立していましたが、BC技術には上記の通り「1;改ざん困難性」「2;対検閲性」という特徴により、そもそも第三者機関を信頼する必要がなくなります
- BC上の取引内容の改ざんが困難
- NWの参加制限を故意的にすることが困難
- 上記の機能により、第三者機関による信用担保が不要となるため、個人間取引でも信頼を必要とせずにBC上で行うことが可能になると思われます
(信用情報)
- 究極、信用担保は「データ」/「データを可視化したスコア」によって為されるものとみられ、メルペイでは信用創造と信用スコアリングに注力するとみられます。
- 信用データはこれまでのMercariでの取引データや、他少額サービスの利用履歴などからスコアリングされ、徐々にデータリッチ化して取引基盤データになっていくものと考えられます。
■BCへのMercariの取組■